
製薬業界では、医薬品の安全性と品質確保が最重要課題となっています。特に包装工程における印刷品質の管理は、患者の安全性に直結する重要な要素です。従来の目視検査では見落としのリスクがあり、人的コストも課題となっています。
画像検査システムの導入により、製薬業界特有の厳格な品質基準をクリアしながら、効率的な生産体制を構築できます。本記事では、製薬業界における画像検査の必要性から具体的な導入ポイント、検査装置の選び方まで解説します。
【製薬業界向け】画像検査の重要性と現状の課題
製薬業界特有の品質管理要求事項
医薬品の製造においては、人々の健康と生命に直接関わるため、極めて厳格な品質管理が求められます。日本では、医薬品医療機器等法(薬機法)に基づき、医薬品の製造管理および品質管理の基準であるGMP(Good Manufacturing Practice)省令が定められており、製造のあらゆる工程で高い品質水準を維持することが義務付けられています。
この基準は、製品の均一性、安定性、安全性を保証するために不可欠であり、異物混入、欠陥、表示不良といったわずかな問題も許容されません。
そのため、製薬企業は製造ロットごとに厳格な検査を行い、製品のトレーサビリティを確保し、すべての工程で品質保証体制を徹底する必要があります。
従来の目視検査における課題と限界
これまで製薬業界では、製品の品質検査の多くを熟練した検査員による目視検査に依存してきました。
しかし、この伝統的な検査方法には多くの課題と限界が存在します。まず、検査員の熟練度や体調、集中力によって検査精度にばらつきが生じやすく、人為的な見落としのリスクを完全に排除することは困難です。
特に、錠剤の微細な刻印不良、PTPシートのわずかな欠け、アンプル内の微小な異物など、高度な集中力を要する微細な欠陥の検出は、目視では限界があります。また、全数検査を実施する場合、膨大な時間と人手が必要となり、生産性の向上を阻害する要因となります。
画像検査システムが解決できる製薬業界の問題
印刷品質検査における精度向上
医薬品のパッケージや添付文書、ブリスターシートなどへの印字は、ロット番号、使用期限、製品名、成分表示といった重要な情報を含んでいます。
これらの印字に誤りやかすれ、汚れ、欠け、位置ずれなどがあると、患者の誤用や健康被害に直結するリスクがあります。従来の目視検査では、検査員の熟練度や疲労度によって見落としが発生しやすく、品質のばらつきが生じる可能性がありました。
画像検査システムを導入することで、高精度なOCR(光学文字認識)やOCV(光学文字検証)技術により、印字内容の正確性を自動で確認できます。
バーコードやQRコードの読み取り精度も向上し、医薬品医療機器等法(薬機法)やGMP省令で求められる厳格な品質基準を満たすことが可能になります。これにより、人為的なミスを排除し、印字不良品の流出を未然に防ぎ、製品の信頼性を高めます。
トレーサビリティの確保と記録管理
製薬業界では、製品の製造から流通、そして消費に至るまでの全過程において、その経路を追跡できるトレーサビリティの確保が不可欠です。これは、偽造医薬品対策や、万が一リコールが発生した際に迅速かつ正確に対応するために極めて重要となります。
画像検査システムは、製品個々に付与されたロット番号やシリアル番号、製造番号、使用期限などの情報を正確に読み取り、デジタルデータとして自動で記録・管理します。これにより、紙ベースでの煩雑な記録作業が不要となり、データインテグリティを確保しながら、リアルタイムでの情報共有と追跡が可能になります。監査対応や規制当局への報告もスムーズになり、コンプライアンスの強化に貢献します。
人的コストの削減と作業効率化
従来の目視検査は、多くの検査員を必要とし、人件費や教育コストが大きな負担となっていました。また、検査員の集中力維持には限界があり、長時間労働による疲労は検査精度の低下を招く要因となります。
画像検査システムは、24時間体制での自動検査を可能にし、検査員を大量に配置する必要がなくなります。これにより、大幅な人件費の削減と、検査員の採用・育成にかかるコストを低減できます。さらに、検査結果の自動判定とデータ化により、手作業による記録や集計の時間を削減し、生産ライン全体の作業効率を向上させます。検査員はより高度な品質管理業務や改善活動に注力できるようになり、人的リソースの最適化が図れます。
不良品流出リスクの最小化
医薬品の不良品(異物混入、破損、変形、充填不良、欠品、印字不良など)が市場に流出した場合、患者の健康被害という最悪の事態を招くだけでなく、企業イメージの失墜、巨額のリコール費用、法的責任といった甚大なリスクを伴います。製薬企業にとって、不良品流出は絶対に避けなければならない問題です。
画像検査システムは、生産ライン上で全数検査を高速かつ高精度で実施できるため、従来の抜き取り検査では見逃されがちだった不良品も確実に検出します。これにより、不良品の早期発見と自動排除が可能となり、市場への不良品流出リスクを限りなくゼロに近づけることができます。品質の安定化は製品の信頼性を高め、企業のブランド価値向上にも寄与し、GMP遵守における重要な要素となります。
【製薬業界向け】画像検査装置の種類と特徴
ライン検査タイプの特徴と適用場面
ライン検査タイプ、またはインライン検査システムは、生産ラインに直接組み込まれ、製品が製造される過程でリアルタイムに全数検査を行う装置です。高速で連続的に流れる製品に対し、高いスループットで検査を実施します。
特徴
・生産ラインに直結し、搬送速度に合わせて高速で検査を実行。
・全数検査が可能であり、不良品の流出リスクを最小限に抑える。
・リアルタイムで検査結果をフィードバックし、異常発生時に即座にライン停止や排出処理が可能に。
・人件費を削減し、24時間体制での検査も実現。
適用場面
・錠剤のシート包装における欠損、異物、印字不良の検査。
・アンプルやバイアルの異物混入、液量、ガラス欠けの検査。
・PTPシートの錠剤充填確認や、ブリスターパッケージの密封性検査。
・ラベルの貼付位置、印字内容(ロット番号、使用期限)のOCR/OCV検査。
・容器の外観検査(傷、変形、汚れなど)。
オフライン検査タイプの特徴と適用場面
オフライン検査タイプは、生産ラインから製品を抜き取り、専用の検査ステーションで詳細な検査を行うシステムです。ラインの速度に制約されず、多角的な視点や高分解能での検査が可能です。
特徴
・ラインの稼働に影響を与えることなく、サンプル品に対してじっくりと検査を行える。
・高解像度カメラや特殊照明を用いることで、微細な欠陥や複雑な形状の検査に適している。
・検査基準の調整や、新製品の品質評価、クレーム品の解析など、柔軟な運用が可能。
・研究開発段階や、抜き取りによる品質保証体制の一部として活用される。
適用場面
・新製品の試作段階における品質評価や検査基準の確立。
・ロットごとの抜き取り検査による最終品質確認。
・ライン検査で検出された不良品の詳細な原因分析。
・多品種少量生産品や、特に高い品質が求められる特殊医薬品の検査。
・熟練者による目視検査の補助や代替。
AI・機械学習を活用した検査システム
近年、製薬業界の画像検査において、AI(人工知能)や機械学習、特にディープラーニングの活用が急速に進んでいます。これにより、従来のルールベースの検査では難しかった高度な判定や、未知の欠陥検出が可能になっています。
特徴
・大量の良品・不良品画像をAIに学習させることで、検査基準を自動で構築し、精度を継続的に最適化できます。これにより、事前に定義されていない人間が見逃しやすいような微細な欠陥や複雑な異常も検出可能。
・熟練検査員の判断に近い、あるいはそれ以上の高精度な判定を実現するため、過剰な不良品排出や見逃しを減らせる。
適用場面
・錠剤の欠け、コーティング不良、色ムラ、異物付着など、複雑な外観検査。
・アンプルやバイアルのガラス表面の微細な傷、クラック、気泡、内容物の濁り検査。
・注射針の先端形状や、医療機器部品の精密な検査。
・多品種少量生産における、多様な欠陥パターンへの対応。
・ラベルのしわ、破れ、印字かすれなど、目視判定が難しい微妙な不良の検出。
【製薬業界向け】画像検査の導入ポイント
検査対象物の特定と優先順位の決定
画像検査システムを導入する際、まず明確にすべきは「何を検査するのか」という検査対象物の特定です。製薬工場では、錠剤、カプセル、アンプル、バイアル、PTPシート、ラベル、個装箱、添付文書など多岐にわたる製品や資材が扱われます。それぞれの対象物に対し、異物混入、破損、変形、印字不良、液面不良、欠品といった検出したい不良の種類を具体的に定義することが重要です。
全ての検査工程に一度にシステムを導入することは現実的ではないため、リスクアセスメントに基づいた優先順位付けが求められます。例えば、市場への影響が大きい不良、目視検査の負担が特に大きい工程、不良発生頻度が高い箇所などを優先的に検討します。これにより、限られたリソースの中で最大の効果を発揮できる導入計画を策定することが可能になります。
既存生産ラインとの統合計画
画像検査システムは、既存の生産ライン(充填、打錠、包装、シーリングなど)とシームレスに連携して初めてその真価を発揮します。導入に際しては、システムの設置スペース、既存設備の搬送速度やタクトタイムへの適合性、そしてPLCなどの制御システムとのインターフェース接続を詳細に検討する必要があります。
システムの導入は生産ラインの停止を伴うことが多いため、生産計画に与える影響を最小限に抑えるための導入スケジュールを綿密に策定することが重要です。
検査基準の設定と閾値の最適化
画像検査システムを効果的に運用するためには、「何をもって良品とし、何をもって不良品とするか」という明確な検査基準の設定が最も重要な工程の一つです。この基準は、製品の品質規格、製造指図書、そして医薬品医療機器等法やGMP省令などの規制要件に基づいて厳密に定義される必要があります。
システムにおける「閾値」(しきいち)とは、良品と不良品を区別するための具体的な数値基準を指します。例えば、キズの大きさ、印字の濃淡、異物の色差などがこれにあたります。閾値が厳しすぎると過剰な不良品判定(誤検出)による歩留まりの低下を招き、逆に緩すぎると不良品の見逃しにつながるリスクがあります。
そのため、多数の良品・不良品サンプルを用いた学習と調整を繰り返し、実生産環境での評価を通じて最適な閾値を設定することが不可欠です。
【製薬業界向け】画像検査装置の選び方とは
検査精度と処理速度のバランス
製薬工場では、微細な異物混入、錠剤の欠け、PTPシートの印字不良など、肉眼では判別が難しい不良を高い精度で検出することが求められます。同時に、高速な生産ラインを滞りなく稼働させるためには、検査装置にも高い処理速度が要求されます。
高解像度カメラと高性能な画像処理エンジンを搭載した装置は高精度な検査を可能にしますが、その分データ量が増え、処理に時間がかかる傾向があります。
そのため、検査対象物の種類(錠剤、カプセル、アンプル、バイアル、PTPシート、化粧箱など)や検査項目(異物、外観、印字、内容量など)に応じて、必要な検査精度と許容される処理速度のバランスを慎重に検討する必要があります。
例えば、極めて微細な異物検出が必要な場合は、高解像度カメラとAIを活用した高度なアルゴリズムが有効ですが、印字検査であれば高速なラインスキャンカメラが適している場合もあります。導入前に、実際に検査したい対象物を用いた実機テストを行い、検出能力と処理能力を評価することが重要です。
製薬業界向け認証・規格への対応状況
製薬業界で使用される検査装置は、医薬品の品質と安全性を保証するため、特定の認証や規制に準拠していることが必須です。最も重要なのは、医薬品の製造管理および品質管理に関する基準であるGMP(Good Manufacturing Practice)への対応です。装置がGMPに準拠していることで、品質保証体制の一部として信頼性が確保されます。
また、FDA(米国食品医薬品局)が定める21 CFR Part 11(電子記録および電子署名に関する規制)への対応も非常に重要です。これは、電子データが紙媒体の記録と同等の信頼性を持つことを保証するためのもので、画像検査システムが生成する検査結果や監査証跡などの電子記録が、改ざん防止、トレーサビリティ、アクセス管理などの要件を満たしている必要があります。装置メーカーがバリデーション(適格性評価)を支援する体制を整えているか、また、バリデーションに必要なドキュメント(IQ/OQ/PQ)の提供が可能かどうかも、選定の重要なポイントとなります。国際的なISO規格への対応も、装置の品質と信頼性を示す指標となります。
メンテナンス性とサポート体制
画像検査装置は、医薬品の生産ラインに組み込まれるため、装置の停止は生産計画に大きな影響を与えます。そのため、装置の安定稼働とトラブル発生時の迅速な復旧が極めて重要です。
装置選定時には、日常的な清掃や部品交換のしやすさといったメンテナンス性を確認することが不可欠です。製薬工場では、装置の清掃性やサニタリー性も求められるため、防塵・防水性能や、洗浄しやすい構造であるかどうかも確認しましょう。
さらに、万が一の故障や不具合に備え、メーカーのサポート体制が充実しているかを確認する必要があります。
具体的には、24時間対応の電話サポート、リモート診断サービス、迅速な現地駆けつけ対応、消耗品の安定供給、長期的な部品供給保証などが挙げられます。導入後のオペレーターに対する十分なトレーニングプログラムが提供されているかどうかも、装置を最大限に活用し、トラブルを未然に防ぐ上で重要な要素となります。
まとめ:画像検査で製薬業界特有のお悩みを解決
製薬業界における品質管理は極めて重要であり、従来の目視検査では品質のばらつきや見落とし、人件費高騰といった限界があります。画像検査システムは、この課題を解決し、製品の品質向上、不良品流出リスクの最小化、トレーサビリティの確保、そして生産効率の向上に大きく貢献します。
東京電子工業では、長年にわたり培ってきたノウハウと柔軟な設計力で、製薬業界特有の厳格な品質基準を満たす画像検査システムをご提供しています。お客様の多様なニーズに合わせ、錠剤の刻印・欠け検査、PTPシートの充填確認、ラベルの印字・貼付不良検査など、幅広い検査項目に対応可能です。
特に、医薬品のパッケージや添付文書における重要な印字情報の検査に強みがあります。高精度なOCR/OCV技術により、ロット番号や使用期限、製品名といった文字の誤字脱字、かすれ、位置ずれなどを確実に検出し、不良品の流出を未然に防ぎます。
また、当社のシステムは、生産ラインに組み込むライン検査タイプから、詳細な抜き取り検査を行うオフライン検査タイプまで、お客様の運用に合わせた構成が可能です。バリデーション支援やメンテナンス性を考慮した設計により、導入後も安心してご利用いただけます。
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